2024年 秋号
10月になりますと、うだるような夏の暑さも過ぎ去り、朝夕の気温が20度台を示し、ようやく凌ぎやすい季節がやってきました。皆様方におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
ところで、今回の所長だよりは一倉定先生の「社長の姿勢」の中で、経営理念や未来像、経営計画を取り上げてお話しすることにいたします。前回は「社長は経営に関する色々な危険を伴う重要な意思決定する人である」というテーマを中心にお話をさせていただきました。その中で特に、中小の会社において、基本的に重要な事項はすべて、社長がトップダウンにより決定した方がその意思が社員にスムーズに伝わり、事業活動がうまく進んでいくものと思います。このような進め方をワンマン経営と呼びます。
それでは「正しいワンマン経営」とは
(1)社長は、自らの経営理念に基づく我社の未来像(ビジョン)を持ち
(2)その未来像を実現するための目標と方針を、自らの意思と責任において決定し、これを「経営計画書」に明文化する
(3)経営計画を社員によくよく説明して協力を求める
(4)経営計画の最も重要な施策は自ら取り組み、他は任せる
ということでありました。
上記の中で、まずは「経営理念」とは何なのかということからお話を進めてまいります。経営理念とは会社の本来あるべき根本の考え方であり、具体的には社長の思想・人生観・宗教観・使命感等に基づく経営の基本的な態度のことであります。これは作ろうと思っても短兵急にできるものではなく、考えて作り上げるものでもありません。長年の事業経営の中で次第に育ってくるものであり、人生経験の積み重ねから生まれるものであります。この経営理念こそ、事業経営の魂です。それ故、社長としては、社員に経営理念を明確に示し、浸透させていかなければなりません。そのためには、できれば明文化した方がよいのではないかと思います。
次に「未来像」ですが、前述の経営理念は一つの哲学であり、この哲学を踏まえ、実践活動に移していくことになります。そして、その実践に当たっては我社の未来像を具体的に示すことであります。それには最小限、次の三つが必要になってきます。第一には、どのような事業を行うかということであります。事業は、必ずしも一つとは限りません。長期的にはむしろ、いくつかの事業を組み合わせたほうが変化への対応力が強くなります。第二には、事業構造と規模であります。事業構造を明らかにすることにより会社の基本的な性格が決まり、また、規模を示すことにより行動の基準と方向が明白になります。第三には、社員の処遇です。給与、勤務体系、福利厚生などがその中心となります。経営理念は一度明文化すると会社が存続する限りは固定化されたものでなければなりません。しかし、未来像は、客観情勢が変われば、それらの変化に伴って、絶えず、書き換えられなければなりません。
最後に、「経営計画」でありますが、これは社長の未来像を具体的な活動指針としてあらわしたものであります。事業の経営は、いろいろな活動が総合され、有機的に結びつけられ、弾力的に運用されてはじめてうまくいきます。しかし、これを実際に行うのは生易しいことではありません。この難問を解決するには、事業経営全体を知らなければなりません。これを知る最も有効な手段こそ、経営計画であります。これほど有効な手段はありませんし、これほど社員を動機づける道もありません。このように重要な役割を果たす経営計画そのものは社長自らが筆をとり、精魂を傾け尽くして作り上げるものです。社長の魂をこの経営計画に結集するということであります。それゆえ、社長の行動も全社員の行動もすべては、この経営計画にもとづいて行わなければなりません。
この策定された経営計画の理想とするところは、経営計画発表会を開催し、社員によくよく説明し、徹底を図らなければなりません。この経営計画発表会こそ会社が生まれ変わる日であり、出席者の一人ひとりが「よし、頑張るぞ」という決意を持つ日なのであります。ここに、全員経営が生まれ、そして、会社の業績は見る見る上がっていくのであります。これは、「正しいワンマン経営こそ、全員経営を実現する道である」ということを一倉先生は特に強調して結論づけられています。
現在、私どもが顧問させていただいている会社の中で、短期の利益計画を策定されている会社は多く見受けられますが、ここでいう経営計画書を策定されている会社は皆無であります。将来、株式上場や売上高を100億円以上目指されている会社においては、この経営計画書を策定し、社員と共有しているケースが多い傾向にあるといわれています。
顧問先の皆様方で経営計画書の策定を考えられている会社があれば、有料となりますが、当法人がお手伝いをさせていただきますので、ご相談下さい。
以上、今回はここで筆をおかせていただきますが、次回は「社長は日常、何に重点をおいて取り組まなければならないのか」をテーマにしてお話をさせていただきます。