2025年 春号
今年も4月を迎え、インフルエンザや新型コロナウイルスも収まってきたのでしょう。マスクをしている人の数も、最近は少なくなっているようであります。また気候においても、春らしい温かさと快さが感じられ、生きとし生けるものが、積極的に活動を始める季節がやってきました。関与先の皆様方におかれましては元気でお過ごしのことと思います。
ところで、前回の所長だよりは、一倉先生の“社長の姿勢”の中で、「お客様訪問」をテーマとして3回目を取り上げさせていただきましたが、今回は、「お客様の要求を満たすこと」(副題:正しいサービスとは)についてお話をさせていただきます。
まずは一倉先生のお言葉として「お客様の要求を満たすことは、面倒臭く、能率が悪く、経費がかかることを肝に銘じ、ただひたすらお客様の要求を満たすことこそ“正しいサービス”であり、会社のつとめである。正しいサービスを行うことにより、正しい報酬をいただかなければならない。さもなければ、事業を継続し、さらに発展することができないからである。」があります。この言葉自体は事業の根幹である会社の存続発展にかかわることを示唆しております。すなわち会社が存続していくためには、何はともあれ、売上高を確保することが肝要であります。損益は「売上高―経費」の計算式から成り立っています。内部管理といわれる稼働率や材料等の歩留まりの向上、また労働生産性を上げ、資産の回転率を良くするといったことのすべては、基本的には経費を引き下げることにつながり、赤字額は減少しますが、売上高が増加することはありません。会社は売上高を増やし経費以上の金額を上げない限り、利益を確保することは出来ません。そのためにはお客様の要求を満たすことすなわち正しいサービスを徹底させることであります。
それでは「サービス」とはどのようなことを意味するのかを考えてみます。一般的にサービスといった場合の意味は、「タダとかオマケ」を指します。確かにこの「タダとオマケ」はサービスであることに間違いはないのですが、これは最も次元の低いサービスであります。これにはサービスの基本である心配りと手間がかかっておりません。むしろ、恩着せがましく、「損得」の問題のような印象を受けるのであります。
サービスの本来の意味というのは「己れを無にして相手のために尽くす」ことであります。
お客様の要求を満たす手段は、大きく分けて物的施設と人的労力の二つになります。前者は「金をかけるもの」であるのに対し、後者の人的労力は「手間をかけるもの」であります。
そして、本当に優れたサービスというのは手間をかけることです。本当にお客様を満足させるもの、感激させるもの、感謝されるものは明らかに手間をかけることであり、気を配ることであります。そして、気配りは言葉や動作に現れます。本当に立派なサービスをすると、「心の交流」が生まれ、お客様は心から感謝の言葉を述べられます。これがサービスをする人の心に大きな喜びを与え、サービスする人の「生き甲斐、やり甲斐」を呼び起すことになります。
反対に、人的サービスの悪さは相手に対して不快感を起こさせ、甚だしい場合には怒りを誘うことになります。このことは人間関係を損ね、事業経営の場合には売り上げ不振どころか、出入禁止にまで及ぶことになります。これらのことが起こるのは、一にも二にも社長の姿勢の誤りに起因するものです。言い換えれば、社長の姿勢それ自体が「お客様第一」になっていないからであります。正しい姿勢とはいうまでもなく「お客様第一」であります。
そして、社長が姿勢を正すとその瞬間から会社の業績が上がりだすということを、一倉先生が生前5,000有余の会社を実際に経営指導された経験からお話をされていたことであります。
結論を申し上げますと、高業績経営を実現する根本原理はただ一つしかありません。それは、「我社の事情は一切無視し、お客様の要求を満たすことすなわち正しいサービスをする」ことに尽きます。このことにより、お客様が利益の基となる「計画以上の売上高」をもたらしてくれます。これは真実でありますので、皆様方も実践なさってはいかがでしょうか。
以上、一倉先生の“社長の姿勢”についてのお話は、今回で終わらせていただきます。次回からは、人間学の哲人といわれている故中村天風師の実践的な教えの一端なりとも、お伝えできればと思っています。